脳卒中リハビリにおける SHBの機能と役割

脳卒中リハビリにおける SHBの機能と役割

脳卒中のリハビリで使用される装具の中で,最も基本的な装具であるSHBについてお話していきます.

今回の記事は,前回の脳卒中装具の足継手:SHB(シューホーンブレース)→記事を読んで頂いている事を前提に進めていきますので.

特にSHBのメリット・デメリットについては目を通して頂ければと思います.

新人の頃,リハDrが装具の選択についてまず教えてくれたのが.それぞれの装具の機能と良し悪しを知りどんな場面でどんな役割を持つのか1つずつ確認する事でした.

今回は実際に歩行訓練を行う際にどのような機能と役割を持っているかについてお話をしていきます.

病棟

SHBの役割

脳卒中に用いられるAFOの目的は

  • 失われた機能の代償
  • 早期立位・歩行訓練
  • 変形の矯正・予防

など,状況によって様々です.

今回は,SHBが歩行を行う際に.どのような役割を持っているのか,代表的な部分について確認していきましょう.

SHBが行う制約である,「固定」と「制動」がどのように働くか知っていれば.その良し悪しも理解しやすいのではないでしょうか.

SHBの4つの力
足継手の制約 SHB

SHBの「固定」

固定」のリジットSHBの目的は,足関節の自由度を0にすることです.

足関節のモビリティを捨て,足関節と一部膝関節のスタビリティを優先した状態でもあるため.当然そのメリットとデメリットは大きくなります

ケース次第で大きく変わりますが,リジットSHBが使用されるのは大きく分けて

  • 足関節の随意性が全く無く.体重支持が困難な場合
  • SHBで制御可能な範囲にある,強い筋緊張がある場合

が多いのではないかと思います.

リジットSHBに求められる役割は,「踵接地」と「遊脚期クリアランス」を可能とする軽度背屈位保持です.初期屈曲角の設定による,殆どのSHBの主目的ですね.

状況によって底背屈「制動」と使い分けを行ったり,後々トリミングの修正をしていくことも多いですが.

痙性が強い場合の中途半端な制動による足関節可動域は.伸張反射の亢進を誘発し,装具内での底屈位クロウトゥを招くため.足関節「固定」装具として使用する事が多いです.

リジットSHBの役割

その支持性の代償として,足関節の可動域は完全に制限され,それに伴う動作も制約されます.制約することが目的で選択する事が殆どなので,ある程度許容される事もありますが.

制約をしている動作については,何かしらの方法で代償する必要があります.その場合には,踵の補高や足底部の加工など靴に対しての加工を行うことが非常に重要です.

SHBの底屈「制動」

SHBの底屈「制動」の主な役割は,「固定」と同様に「踵接地」と「遊脚期クリアランス」が挙げられます.

足部の自重と筋緊張亢進による底屈位に拮抗する制動力が求められます.

またIC~LRまでのヒールロッカーを行うための前脛骨筋遠心性収縮を,SHBの底屈制動は代償しています

これは底屈「制動」という制約の特有の機能で,「制限」や「遊動」では自身で制御する必要があります.

筋緊張に対して底屈制動が弱いと,足関節底屈を制御出来ずIC直後に全足底接地してしまいます.その場合の多くでMStに,足関節底屈位反張膝となってしまいます.

逆に制動が強すぎると,足関節底屈を許さず.LRを経ないままMStへ早期に移行してしまいます.装具による強制的なMStへの移行は膝折れの原因となります.

SHBの役割 踵接地とクリアランス確保
SHBの底屈制動 ヒールロッカーの代償
底屈制動小さすぎる
SHBの底屈制動が小さい
底屈制動大きすぎる
SHBの底屈制動が大きい

また,もう1つ底屈制動の重要な役割が.MStでの足関節中間位の保持です.

筋緊張に対して,SHBの底屈制動が小さいと.MStでの尖足位を許してしまい,それに伴う反張膝が起こります

膝のコントロールがどれだけ出来るかにも左右されますが.SHBの初期屈曲角と底屈制動力によって.足関節と膝関節の制御を行っています.

これら底屈制動で行いたい制御が,SHBの「メインの機能」にあたる事が多いのではないでしょうか.

MstのSHB底屈制動

SHBの背屈「制動」

SHBの背屈「制動」は底屈制動に次いで,SHBという装具に求められている機能ではないかと思います.

現在多く使用される装具を見回してみると,背屈制動を行っているものは意外と少なく.SHBを選択する理由になりうる機能と言えるかもしれません.

その目的は,MStでの背屈制動の足関節制御による「膝折れ」の防止です.

下腿の前傾を制動することで,膝折れを防いでいる訳ですね.体重や膝伸展の機能によるところが大きいですが.背屈制動が小さいと膝折れを許してしまいます

SHBの役割 膝折れを防ぐ

その一方で,強すぎる背屈制動はデメリットもあります.

前記の通り,背屈制動は下腿の前傾を防ぐわけですが.強すぎる背屈制動はMSt~Tstのアンクルロッカー後半の動作を妨げてしまいます

TStへの移行が難しく前型歩行の妨げとなったり.足関節背屈出来ず早期の踵離床に繋がります.

足関節制動によって得られるスタビリティと,失われるモビリティの相反が起こるので.行いたい学習や,優先する機能の検討が必要です

強すぎる背屈制動の弊害

膝折れを防ぎつつ,TStへの移行を妨げない適度な背屈制動はとても難しく.場合によっては両立が困難です.SHBを使用するメリットがある機能であるとともに,状況に合わせたSHBの設定やトリミングの修正が求められる部分でもありますね.

SHBの背屈「補助」

SHBの補助はどちらかというと副次的なもので.これをメインとして使用される事はあまり多くないように思います.

ですが,歩行に与える影響は大きいので.どのような働きをしているか,チェックは大切です.

SHBの補助は,「撓んだプラスチックが,もとに戻る力」を利用したものです.

背屈「補助」は,SHBが底屈したあとで起こるもので.LRで底屈したSHBが,MStにかけて元に戻る事で,アンクルロッカーの前半を補助します

SHBの背屈補助

通常歩行のアンクルロッカーでは,初期こそ下腿を引き起こすため前脛骨筋が働いているものの.MStへむけて,前方への重心移動と下腿三頭筋による制動へと移行するため.背屈を補助する必要性が大きい場合は少なく.SHBの背屈補助は,下腿の前傾と重心の前方移動を助ける「補助的なもの」となっています.

むしろ背屈補助が強すぎると,装具が下腿を強制的に引き起こす事となり.立脚初期の短縮や,膝折れに繋がってしまう場合があるので注意が必要です.

プラスチックの撓みを利用している以上,SHBの背屈「補助」は底屈「制動」と必ずセットです.底屈制動が大きくなるほど,背屈補助も大きくなってしまいます.

SHB作成時には,底屈制動と背屈補助のそれぞれによって起こる影響を考慮した機能が求められる事となりますね.

SHBの底屈「補助」

底屈「補助」も同様で,背屈制動で撓んだプラスチックがもとに戻る時に底屈補助を行います.

これもメインの機能として使用されることはあまりありませんが.TSt~PSwにかけて,底屈補助と重心の前足部への移動を利用して,蹴り出しの補助を行います

背屈制動と底屈補助はセットであるため.この力を強く利用しようとすると背屈制動が大きくなります.どれだけ蹴り出し補助を行えるといっても.強すぎる背屈制動による下腿前傾の妨げによる弊害が大きくなってしまいます.

SHBの底屈補助

また,SHBの底屈補助によって起こる蹴り出しは.鉛直方向への力が大きいため,歩行の前方移動の推力には繋がりにくいという点があります.

こういった理由から,底屈補助は背屈制動に付随する「おまけ」のように扱われてしまう事も多いかもしれません.

脳卒中リハビリの装具として見ると,気にされてない事もありますが.長距離を移動する事が多い場合などでは,この蹴り出しの補助も失われた機能の代償として大きな影響を与えます.

特定の条件が合う場合には,大きな力を発揮する機能と言えるかもしれませんね.

蹴り出しの補助と力の方向

まとめ

SHBの機能と役割についてお話しました.

SHBという装具の制約は,他の足継手を検討する時にも考えるべき事の基本が詰まっています.

「遊動」と「制限」という1か0かの制約と比較して.SHBの「制動」はその間を埋める,難易度の調整や機能の代償を行うことが出来ます.

特に背屈制動は,現在よく使用される装具の中でも持っているタイプは限られているため.有効に使用できる場合には,選択肢の1つとなる装具です.

プラスチックの撓みを使うという特性が,制動と補助を生み出していますが.上手に活かせるかは,状況によって大きく変わってしまいます.

SHB

初期設定に依存する部分が多いことと,調整が不可逆であるという事を理解しながら.機能と役割を活かせる場面で使用することができれば,非常にメリットも大きい装具です

メリット・デメリットと機能や役割を知った上で.次回は実際SHBを使う時に,どのような状況が向いているかについてお話してい聞こうと思います.

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靴に行う補正について

参考文献

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