数多くある短下肢装具の足継手は,それぞれの特徴によって役割が大きく変わってきます.脳卒中のリハビリに用いられる装具であれば,行っていくリハビリの流れにも大きな影響を与えます.
今回は「治療用装具」として使用される,ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具についてお話をしていきます.
その特徴から,選択の1つの基準となっている装具ですが.実際に使用していく上での良し悪しについて確認していきましょう.
前回,前々回のメリット・デメリットや役割については,↓記事をご覧ください
はじめに.
ダブルクレンザック継手と両側支柱付短下肢装具について簡単におさらいしておきましょう.
両側支柱付短下肢装具は内外側にある支柱を特徴に持つ金属製の装具です.
- 失われた機能の代償
- 早期立位・歩行訓練のための体重支持
- 変形の矯正・予防
などを目的に使用されます.
ダブルクレンザック継手は,角度調整可能な制限機能をもった継手で.任意の角度での固定や,制限,遊動と幅広い調整を行うことが出来る継手です.
その特徴から
- 全ての短下肢装具の中でも,「最も」と言って良い支持性
- 多くの継手の中で,どんな状況にも対応しやすい調整性
をもった装具となっています.
そのため,非常に多くの場面で検討の対象となる装具である一方で.その強固な金属製装具である事がデメリットとなる事も多く.
- 外観
- 嵩張り
- 重さ
- 金属音
など,使用を検討していく上で.留意しなければならない点も多いです.
また,足部の固定を行い地面と接する部分である足部は.その仕様により屋内外への対応などの特徴が異なります.装具作成開始までには,必要な条件をよく検討しておく必要がありますね.
治療用装具としてのダブルクレンザック継手
脳卒中のリハビリに用いる装具としてみると,特定の場面では他の継手の方が優れている場合がありますが.全体を通してみると,ほとんどの状況に対応することが出来ます.
その適応は多岐にわたるため,非常に多くの状況での使用が考えられます.
今回は代表的な使用場面についてお話をしていこうと思います
必要となる強力な支持性
ダブルクレンザック継手の最大の特徴となっている強固な支持性は脳卒中のリハビリの場面でも大きな力を発揮します.支持性と調整性を兼ね備えたこの継手は,リハビリを進めていく上で必要となる条件を満たしているのですが.
装具の継手を検討する際に,よく確認していおかなければならないのは.装具の支持性は「何のために」「どの期間で」必要となってくるのかです.
回復の経過と共に支持性が不要なるならば他の装具を選択する余地も生まれてきます.ですが,強固な支持性が長期的に必要なのであれば.選択の余地は少なくなってしまいます.
脳卒中のリハビリで使用される装具に求められる支持性には2種類あり.痙性の有無,強弱によって必要となる理由が全く変わってしまいます.
具体的に,ブルンストロームステージ(BRS)で言えば
BRSⅠの弛緩性麻痺の状態を代表する.
- 純粋に「体重を支持すること」を目的としたもの.
BRS(Ⅱ~)Ⅲの著名な痙性がある状態を代表とする.
- 痙性によって起こる,尖足・内反足などの「変形を防ぐ事」を目的としたもの.
なのかどうかです.
両方を目的に使用される事はしばしばありますが.そのどちらを目的として使用する事になるのかはしっかり検討しておかなければなりません.
それ次第で,装具の支持性が将来必要ではなくなるのか.それとも,作成時と同様の支持性が継続的に必要となるのか.場合によっては作成時以上の支持性が必要となってくる可能性もあります.
予後予測と継手の選択
長下肢装具として使用されている所を想像するとより分かりやすいですが.脳卒中後初期の弛緩性麻痺の状態であれば,その役割は膝・足関節の制約と体重の支持です.
支えるべき力は身長と体重に左右されるため,ある程度容易に予想をすることが出来ます.小柄で体重が少ない方であれば,金属支柱での強固な支持性が不要な場合もあるかもしれません.
基本的には,機能の回復と獲得に伴って必要となる支持性は減少していく事となるはずです.
一方で,痙性の出現によるアライメントの変化を矯正するための支持性は.疾患の予後に大きく左右され予想がしづらいものです.
BRSⅣ.Ⅴ.Ⅵと順調に推移していき,徐々に支持性が不要となっていくのか.そのスピードが緩やかなのか.あるいは著名な痙性が継続してあるのかによって必要とされる支持性の判断も変わってきてしまいます.
予め,著名な痙性に伴う内反や尖足が予測される場合には.その支持性からダブルクレンザック継手は第一の選択肢となります.
「症状の予測」が必要となりますが,装具作成時にどの程度まで確実な予測が出来るかは,タイミングによっては難しい場合もあるでしょう.
- 早期に立位・歩行訓練をしたい
- 作成時期が早いと予後予測が難しい
- 完璧な予後予測は難しく,装具選択も難しい
といった状況に陥ってしまいます.
そんな予想が難しいタイミングでも,ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具であれば.その強固な支持性から,ある程度「どのような状況」にも対応することが可能です.
「何でも出来るから」と聞くと,無難で消極的だったり適当に選んでるように思われるかもしれませんが.予測と症状にズレがあり「装具が全く使い物にならない」となってしまう事に比べれば,遥かに良い選択ではないかと思います.
実際,かつての継手の選択について.イマイチ理解されていなかったり,「流行」のような良く使われる継手が特に理由もなく選択されていた時には.
予想外の症状の変化に対応できず,装具が使い物にならなくなるという事が起こっていました.
装具に関する勉強会や地域連携では.支給に関わる役所に所属する医師やセラピストやPOなどから.「よく分かってなかったり,フォローが出来ないなら.頼むからダブルクレンザック継手で処方してくれ」と言われてしまう程でした.
装具と継手の選択について,理解が進んできた現在でも.装具作成のタイミングと予後予測は非常に重要です.
特定の場面で力を発揮する継手を有効に使う判断をする必要があるとともに.非常に強い痙縮が予想されたり,今後の予測が難しい場合にはダブルクレンザック継手は有用な選択肢となっています.
変形の矯正・予防のための支持性
内反・尖足変形などの矯正・予防を行う必要が予想される場合には,両側支柱付短下肢装具の支持性は程度の違いはあれど必要となる場面が多くあるのではないでしょうか.
強い痙性があり,それを制御する事が目的となっている時に.装具が撓んでしまったり,装具の中で足が動いてしまっては.矯正や予防の目的を達成することが出来ません.
ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具では.尖足については,継手の底背屈制御で.内反については支柱とあぶみの支持性によって制御を行っています.金属製であることの大きな利点です.
その他の継手では,大なり小なり撓んだり捻れたりを許容する必要があります.
特に内反が制御出来ない場合は問題が大きくなりやすく.その結果,装具の適合が悪化し皮膚のトラブルに繋がったり.装具を着けているにも関わらず外側接地となってしまいます.
痙性の出現によって,そのような状況に陥っては.そこに至るまでに行ってきた,踵で接地し,全足底で片脚支持をするという運動学習とは異なるものとなってしまいます.
足の内反変形や,膝の著名な内外反などアライメントの不良がすでにある場合には更に注意する必要があり.
ヒールウェッジやフレアヒールなど対応が求められますが.そんな状態で荷重した際に,装具が撓んでしまっては元も子もありません.
著名な痙性や,アライメントの不良がある場合にはこのような理由から強固な支持性が求められ.ダブルクレンザック継手は唯一の選択肢となることも多いかも知れません.
足底の補正についてはコチラ
調整性と継手の選択肢
どのようなステップを使用するかは,現在の能力や,獲得したい動作によって変わってきますが.短下肢装具の継手が用意できるステップの大きな段階として
- 底背屈「固定」の制約による,膝関節制御の獲得
- 背屈「制限」の難易度調整をした,膝・足関節制御の獲得
- 背屈「遊動」とした,足関節背屈域動作の完全な獲得
- 底屈「制限」の難易度調整をした,足関節底屈域動作の獲得
- 底背屈「遊動」として,足関節底背屈動作の完全な獲得
の5つのステップを用意することが出来ます.
時として必要のないステップや,飛び級して次の段階へ行ける場合もありますが.難しすぎる難易度の設定は,その課題の獲得を難しくしてしまいます.
必要に応じて必要なステップを利用して課題の獲得を行うことが出来るのは.調整性のある継手の大きなメリットです.
背屈域の調整という点で言えば,よく使用される継手の中で調整可能なのは
- ダブルクレンザック継手
- PDCなど
- RAPS-AFO
などに限られています.
回復の過程で獲得していく課題の難易度設定で.多くの選択肢が用意できることは変化していく状況に対応することを考えれば有用な選択肢です.
「支持性」と比較すれば,他の継手でも対応はしやすいものの.弛緩性麻痺から痙性の出現,減少から随意運動獲得までの様々な状況に対応することが可能です.
長下肢装具使用時と比べると,短下肢装具を使用する状態というのは.セラピストの補助の介入度合いもかなり少なくなりつつあるはずです.
歩行中の足関節の制御については,(限定的にセラピストが補助する事はあっても)基本的には装具と患者さん自身が行う事となっているでしょう.
練習課題を次の段階に移す際に,装具の調整による課題難易度のステップを用意すれば.練習の主体を患者さん自身が保持したまま,課題の乗り継ぎを行いやすく出来ますね.
デメリットへの対応
- 外観
- 嵩張り
- 重さ
- 金属音
といったデメリットのある.ダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具ですが.
必要性の高さや,「治療用装具」であることを理由に.目を瞑ってしまいがちです.
著名な痙性やアライメント不良など,どうしても金属支柱の支持性が必要であったとしても.ユーザーさんの理解が得られなければ,その意味合いは薄れてしまいます.
脳卒中の装具において,入院中にリハビリで実際に治療用装具として使用した際の印象というのは.その後の装具の印象を大きく左右します.
装具の使用を止めてしまう方の中には,退院後に装具着けるのツライという方も多いですが.それ以上に入院中に,どのように装具を選択し,どのような説明がされて,どうやって使ってきたかという点で,問題や不満を抱えているケースが非常に多いです.
入院中に不満があったものを,退院後もそのまま使い続けるというのは.とてもハードルが高いです.どれだけ「必要なもの」であったとしても,重くて金属で見た目が「いかにも装具」という,受け入れがたい面があるのは事実です.
「ユーザーさんの理解を得る」というのは,今後装具と付き合っていく上で何よりも重要なステップです.メリットとデメリットはよくよく相談しておく必要がありますね.
また実際使用していく上でも,デメリットへの対応はよく考えなくてはなりません.
特に重さは問題になることが多いです.
長下肢装具の方が装具そのものの重さは気になりますが.使用される場面を考えるとセラピストが介入する余地が多く.長下肢装具分の重さを補助する事で解決しやすいです.
一方,両側支柱付短下肢装具として使用する時期には.前記の通り介入の度合いが少なくなっている事も多く,解決が難しくなります.
装具の重さを代償する動作を起こしやすいため,よくチェックしましょう.
まとめ.
治療用装具としてのダブルクレンザック継手を使用した両側支柱付短下肢装具についてお話しました.
代表的な場面の一部を取り上げてのお話となりましたが.治療用装具として選択する場合に,ダブルクレンザックはその支持性と調整性から.どんな状況にも対応しやすく,症状の変化が予測しにくい場合でも「無難な選択」とも言える継手です.
実際,場面によっては他の継手が「優れている」事はあっても.ダブルクレンザック継手で「対応出来ない」場面というのは少ないのではないでしょうか.
また,著名な痙性による内反や尖足が見られる場合には.予防や矯正の点からも支持性が最も強いダブルクレンザックは,まず検討対象となる継手と言えます.
短下肢装具の足継手を検討する際には,このダブルクレンザックが「基準」となり.今後予想される症状の変化や獲得していく課題に対して,他の継手を選択した場合ではどんなメリットがあるのかを模索していく事となります.
その必要性から選択されることがある一方で.ハッキリしたデメリットがあるため,ユーザーさんへの説明と理解は必須です.この継手を選択している以上は,装具をそれなりの期間利用する事が予想されます.
ダブルクレンザック継手は,治療用短下肢装具の継手の「基本」とも言えるものです.今回だけではとてもお話しきれない部分も多いので,また機会を見てその他の面についても触れていこうと思います.
資料提供
今回の記事を作成するにあたり引き続き,「ダブルクレンザック継手」の資料提供を義肢装具総合メーカーの「株式会社 小原工業」様からご協力いただきました.
http://www.obara-kogyo.jp/product/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%90%E3%83%8D/
参考資料
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日本整形外科学会 ほか(監修),義肢装具のチェックポイント,医学書院,第7版,p348
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加倉井周一,新編 装具治療マニュアル-疾患別・症状別適応-,医歯薬出版,第2版,p56-
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/7/3/7_3_289/_pdf/-char/ja
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/39/7/39_KJ00008521513/_pdf/-char/ja
脳卒中の病態から短下肢装具を選択する,渡辺 英夫,日本義肢装具学会誌,2007,23巻 2号 p. 107-112
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/23/2/23_2_107/_pdf/-char/ja
床反力解析から検討する脳卒中に対する治療用長下肢装具の適応—長下肢装具から短下肢装具へ移行する際の足継手調整の検討—,梅田 匡純,日本義肢装具学会誌,2018,34巻3号 p. 222-229
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/34/3/34_222/_article/-char/ja/
脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした回復期病棟での理学療法,門脇 敬,理学療法学,2020,47 巻 4 号 ,p369-376
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/47/4/47_47-4kikaku_Kadowaki_Kei/_pdf/-char/ja
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/artsjpta/29/0/29_20/_pdf/-char/ja